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<母の日>おかあさんを題材にした日本映画“6選”


5月12日は母の日だ。映画の中でも様々な「母親」が描かれている。家族の一員としての母親、葛藤を抱える母親、子どもから見た母親など。

今回は、母の日にちなんで印象的な母親像が垣間見える日本映画を6本紹介していく。

母の日に観る映画に困った際に活用していただけたらと思う。

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1:『こんにちは、母さん』(2023)

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『男はつらいよ』シリーズをはじめとし、家族を題材にしたテーマを描き続けてきた巨匠・山田洋二。彼には「母」3部作があり、3作目にあたる『こんにちは、母さん』が2023年に公開された。

食事処や学校、美容室といった市井の仕事に密着した映画を撮ってきた山田洋二監督とっては珍しいサラリーマンを主人公とした異色作。社会の歯車として生きる者との対比で自由に生きる母親像を重ね合わせているところが興味深い。

大泉洋演じるサラリーマン神崎。彼は人事部長として早期退職者の処理を行っている。会社のシステムの中で、長年の付き合いであった同僚との関係にまでメスを入れる必要が出てくる、人情とは無縁の世界。家庭では妻との離婚問題を抱えており、行き場の失った彼が久々に実家へ訪れる。

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すると、母親はイキイキとしておりご近所さんとの付き合いはもちろん、恋愛をも楽しんでいる。そんな母の姿を見て神崎の心は揺さぶられる。

大人になり、おもむろに実家へ帰ると子育てから解き放たれた母親が活発に文化的活動へいそしむ姿を見ると嬉しくなる。また、行き詰った現状の問題が意外とささいに感じることだろう。

山田洋二監督は、子育てが終わり自由になった母親像を通じて、社会システムの中で行き詰った者たちを勇気づけた。まさしく「母の日」に最適な作品であろう。

▶︎『こんにちは、母さん』を観る

2:『秋日和』(1960)



日本映画を代表とする巨匠・小津安二郎は母親の葛藤をテーマにした作品を数多く手がけている。『秋日和』では、原節子演じる未亡人・秋子(原節子)と婚期を迎えた娘・アヤ子(司葉子)が周囲からお見合いの圧を受け葛藤していく過程を、絵画のように洗練された空間構図の中で描いていく作品だ。

秋子は娘に結婚してほしいと思うが、アヤ子は母を想いながらもまだ結婚したくないと語る。縁談を持ち掛ける知人の男たちの言葉も華麗に回避するアヤ子。彼らは、秋子を再婚させれば彼女も結婚に乗り気になるだろうと張り切る。だが、秋子自身は亡き夫に一途である。

本作は生涯独身を貫いた小津安二郎の葛藤をも反映させた作品ともいえる。独身でいることが変だと思われていた時代のねっとりとした圧力。それをどこか息の詰まるような空間でもって描き出す。

同時に、母として娘に結婚してほしいと願いつつも、自分自身は再婚など考えられない複雑な心境を繊細に捉えていく傑作である。

▶︎『秋日和』を観る

3:『楢山節考』(1983)



5月はカンヌ国際映画祭のシーズンでもある。最高賞にあたるパルム・ドールを受賞した日本映画に『楢山節考』があり、これが「母親」を題材にした作品だ。

本作は、深沢七郎の同名小説であり、信州の寒村を舞台に姥捨て山へ母を連れていく男の葛藤が描かれる。

悟ったような母が強風の中、息子と一緒に死に場所へと向かっていく姿は切ないものがある。監督を務めた今村昌平は、自然の厳しさの中、一歩一歩大地を踏みしめながら母との思い出を噛みしめていく姿を生々しく描いている。

「楢山節考」は1958年にも映画化されており、こちらは強烈な赤や緑の色彩、セットによる独特な質感で母との最期の日々を捉えている。比較して観ると興味深く、母を労りたくなる作品だ。

▶︎『楢山節考』(1963)を観る

4:『秋立ちぬ』(1960)



子どもにとって母親は重要な存在である。成瀬巳喜男はユニークに母親の不在を描いている。父を亡くし、母と共に長野から東京へやってきた少年・秀男の夏が描かれる。

銭湯では近所の子に訛りをいじられ、交通量の多い大都会に困惑するも、兄貴分との仕事を手伝い、やんちゃ坊主たちと野球をしたりするうちに東京の暮らしへ慣れていく。

女中として働きに出た母のことを恋しく思う少年の成長を描きつつ、後半の驚くべき展開により、いかに母親の存在が重要かが突きつけられる。成瀬巳喜男はカブトムシを用いて、牧歌的な空気感を作り出しつつ、少年の渇望を掬いあげた。

79分と短いながらも強烈な後味を残す作品といえよう。

▶︎『秋立ちぬ』を観る

5:『ある男』(2022)

(C)2022「ある男」製作委員会」製作委員会

芥川賞作家である平野啓一郎の同名小説を映画化した本作は、とある事件をきっかけに「家族」のアイデンティティが揺らぐミステリーとなっている。

雨の日に文房具屋へ現れた男・大祐。彼に惹かれた女は再婚し、4人家族として新しい人生を迎えた。しかし、不慮の事故で彼が亡くなってしまう。葬式に現れた大祐の親戚。そこで衝撃的なことを言われる。

「この人、大祐じゃありません。」

子どもたちはこの異常事態に困惑する中、母親として支えつつも、大祐の正体が誰なのかを追っていく。

安藤サクラ演じる母の多層的な演技は、日本アカデミー賞最優秀女優賞受賞も納得である。序盤の雨が降り注ぐ中、悲しみに暮れるも仕事をしないといけないので涙を隠しながら働く姿、複雑な状況をどのように子どもに説明しようか迷う、翳りある振る舞いは必見だろう。

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▶︎『ある男』を観る

6:『劇場版3D あたしンち 情熱のちょ〜超能力♪ 母大暴走!』(2010)

(C)ママレード/シンエイ動画・メディアファクトリー・テレビ朝日・ADK 2010

けらえいこの人気エッセイ漫画「あたしンち」。連載30周年を迎え、新作アニメの制作が決定した本作だが、映画が2本作られているのをご存じだろうか?

そのうちの1本が『劇場版3D あたしンち 情熱のちょ〜超能力♪ 母大暴走!』である。本作は元々3D映画として作られた映画だ。この異色さに警戒する人もいるだろう。確かに、3D映画として考えると珍妙である。

たとえば、みかんが坂から転がるところの奥行きを3Dで表現しているなど、異様な作品となっている。上映時間も前作『映画 あたしンち』が95分に対して43分と中編に留まっているところからも、大人の事情がうかがえる。

しかしながら、監督は後に傑作『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』を手がける高橋渉。そのため、実は母目線で観ると良作なのだ。

突如、超能力が使えるようになった母は「誰かの役に立ちたい」一心で時にコスプレをしながら人々を助けていく。しかし、家族からは役に立っているとみなされず、そのフラストレーションがやがて暴走することとなる。

母として家事・育児を行う中で「当然のもの」として扱われ軽視されてしまう状況への問題提起を、アメコミ映画のような葛藤の物語にぶつけていくのだ。

今観ると、『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』や『Swallow スワロウ』『プリシラ』のような作品として受容できるのかもしれない。

▶︎『劇場版 あたしンち 情熱のちょ〜超能力♪ 母大暴走!』を観る

(文:CHE BUNBUN)

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